委託販売とは、委託者から商品を預かり、売れた時点で販売手数料を稼ぐ方法です。少ない資金で商品を揃えることができるため、在庫リスクを回避しつつ商品ラインナップを増やす手法として有効です。
一見するとメリットが多いように見えるビジネスモデルですが、成功させるにはコツが必要で、リスクも伴います。この記事では、委託販売のメリットとデメリットをわかりやすく説明し、どのような場合に適しているか、またどのような場合に避けた方が良いかについて考えていきます。
委託販売の基本とメリット
委託販売では、在庫や売れ残りのリスクがなく、ビジネスを進めることができるという大きな利点があります。
通常の仕入れ商品では、在庫や売れ残りのリスクがつきものですが、委託販売では商品が売れたときにのみ仕入先へ支払いが発生するため、このリスクがありません。
そのため、少ない資金で商品ラインナップを増やしたいと考えるビジネスにとっては非常に有効な手法です。
身近なところですと、「書店」が委託販売の形式をとっています。
一般的な流れでいうと、出版社が作った本を、日販やトーハンといった取次店が書店に本を配本します。書店は本を店頭に並べますが、並べた本が売れなければ、返本という形で最終的に出版社に戻されるのです。
かなり簡単にお金の流れを伝えると、一旦取次店が出版社に配本した分のお金を支払いますが、返本された分のお金は、後日出版社から取次店に返金します。書店は売れた本の何割かを取次店に支払うという流れになります。
委託販売のビジネスモデルは、委託者の代わりに商品を販売し、その販売手数料を得ることで利益を生む流れです。これにより、限られた資金でより多くの商品を揃えることが可能です。
私の店で委託販売をしなかった理由
私はアクセサリーショップを運営していた際、後半に資金不足のため委託販売を取り入れました。しかし、その後展開した着物リサイクル店では、委託販売を行わない選択をしました。その理由はいくつかあります。
まず、着物リサイクル店には、着物を着る人と、着物生地を使って洋服や小物を作る人という2種類のお客さんがいます。委託販売を希望する方の多くは、着物生地を用いて手作りで小物や洋服を作る方たちでした。
手作り品は製作に手間がかかります。しかし、買い手はその苦労を十分に理解しないことが多く、価格を高く設定するのが難しくなります。
また、作り手も価格を高くすると売れにくくなると考え、安売り傾向に走りがちです。その結果、お店が売りたい金額と作り手が受け取る金額に大きな差異が生じてしまいます。
例えば、1つの作品を1万円で売り、半分を販売手数料として引いたとした場合、作り手には5,000円しか残りません。店舗側も販売にかかる人件費や宣伝費、運営コストを負担しているため、高めの手数料を設定せざるを得ないのです。
製作者はもちろん材料費がかかるので、経費を引くと実際の利益は3,000円や2,000円ほどにしかならない場合があります。ひとつの作品を作るのに数時間かかることは当たり前で、数千円しか手元に残らないというのは、作り手にとって十分な収入とは言えません。
委託販売を希望される方は当店のお客さんでもあります。私なら、お店で1万円で売っているのを知りながら、自分の手元には3,000円や2,000円しか残らないというのは、何だかすっきりしないと感じます。
そもそも、着物ビジネスでは原価率が5%程度のビジネスモデルを構築していましたので、1万円の商品を販売した場合、9,500円が粗利として残る計算になります。
そのため、限られた売り場を委託販売の商品でスペースを埋めることにはあまり魅力を感じませんでした。
アクセサリーショップでの委託販売の失敗
アクセサリーショップの時に委託販売を行い成果が出なかった理由も、結局は販売数と利益が思ったように良くなかったからです。
その当時、実際委託販売をやってみて感じたのは、管理をきちんと行うことが前提ですが、商品はお店のコンセプトや方向性にマッチしたものだけを委託販売するべきということです。
商品点数を増やしたいとか、売れれば何でも良いという考えだと、とりあえず売れそうな商品を置いてしまいがちになりますが、そこはぐっと我慢してほしいと思います。
なぜならお店のコンセプトがズレ、求めているお客さんが集まらなくなるという危険性があるからです。初めは売れたとしても、商品のラインナップが常に変わってしまうお店にお客さんは定着しません。お客さんが定着しないということは経営を安定させることができないということです。
また、手数料はできれば高く取れるようにしてください。委託販売は商品リスクがないからと考え、販売手数料を少なく設定しているお店があります。
沢山売ることができるのであればそれでもビジネスを回せますが、いくら商品仕入れにお金がかからないといっても、委託販売の利益で場所代や集客をまかなうと考えれば、販売手数料を低く設定してはいけないことがわかります。
利益を委託者に還元するということは、次の商品につながることを意味します。委託者はパートナーと考え、お互いが気持ちよく関係性を続けられるかというのはとても大切だと思います。
委託販売のデメリット
手作りなどマンパワーを必要とする委託販売の難しさの一つは、商品の特性がビジネスに与える影響です。手作り作品は作り手のスキルや時間に大きく依存しており、商品を安定して供給することが難しいのです。
例えば、作り手の制作ペースが遅れると、店頭に並べる商品が不足してしまいます。これでは商品を購入したいお客さんの期待に応えることができません。
また、作り手が急な予定や体調不良で製作を後回しにすることもよくあります。商品が無ければお金に換えることはできないので、販売するのが困難です。これはコントロールできない要素となり安定的な売上を阻む要素となります。
さらに、店頭でお客さんが商品を手に取った際に作品が傷つく可能性もあります。作者が心を込めて作った作品にトラブルが生じた場合、その対応によって作り手との関係性が悪化してしまうかもしれません。
もちろん、新品の場合でも同じです。金額の安い商品であれば商品であれば対応の仕方はあるかもしれませんが、高額商品になればリスクも高まります。委託するほうも、高額の商品を預け続けることに抵抗があるでしょうあるでしょう。
他人の商品を扱うということは、相応の責任が生じ、その管理に伴う手間やリスクも大きいのです。こうした理由から、私の店では委託販売を行わないという判断に至りました。
委託販売をうまく利用するには
とはいえ、先ほどお伝えした書店などのように、委託販売をうまく活用すればビジネスとして成立させることが可能です。
例えば、自社商品と委託商品を組み合わせることで、他にはない独自の価値を提供し他店との差別化を図ることもできるでしょうし、店舗のコンセプトに合った商品を選ぶことで、店全体の魅力を引き立てることもできるでしょう。
また、利益が薄くなってしまうことを理解しながらも、作り手との関係性を構築することで、材料を新たに購入してもらったり、作り手向けの教室などを開催することで別の収入源を得るなどの流れを構築できるのであれば、委託販売を行うのも良いでしょう。
高額な商品を委託販売形式にして提供することも可能です。例えば、画商などはその要素をイメージしやすいかもしれません。アーティストを発掘し、二人三脚で世に送り出すなどのサポートは、単なる委託販売の枠を超えていますが、委託販売に近しいビジネスモデルとした成功例として理解しやすいでしょう。
委託販売を成功させるためには、いくつかのルールを設けることが大切です。商品の品質基準を定め、基準に達しないものは販売しないことや、一定期間売れなかった商品は返品するなど、明確な取り決めが必要です。
また、作り手との信頼関係を構築し、商品の供給に問題が生じた際にも協力して解決できるようにすることが重要です。商品提供者(仕入れ先)と販売者のパワーバランスが崩れると、一気にビジネスがうまく回らなくなってきますので、その点に注意しながらビジネスを構築してください。
まとめ:委託販売の扱い方を考えよう
委託販売は、商品数を増やしコストを抑えつつ、新しい魅力を提供できる手法です。しかし、そのためにはリスクや課題も多く存在します。私は利益率や安定した供給と品質管理の難しさから委託販売を行わない選択をしましたが、店舗の戦略やビジネスの種類によっては有効な手段となり得ます。
最も重要なのは、委託販売であれ自社商品であれ、まずはお客さんを呼び込むことです。どんなに良い商品を揃えていても、お客さんが来なければ意味がありません。
しっかりとした集客計画を立てた上で、委託販売を取り入れるかどうかを検討するのが大切です。メリットとデメリットをよく理解し、リスクを最小限に抑えながら効率的に利益を上げる方法を見つけましょう。
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この記事を書いた人 Wrote this article
Hiroaki Nakamura 起業家・ビジネス書作家
新規事業創出・ニッチビジネス・スモールビジネス構築を得意とする起業家/ビジネス書13冊出版(関連書籍含)。複数の事業展開の経験を持ち、現在は新規事業創出支援、設備メンテナンス事業、人材育成・組織開発支援と、異なる業種3社を経営。特に放置自転車問題とビジネスを掛け合わせた発想や手腕をはじめ、最小の労力で最大の結果を生み出す独自のスモールビジネス構築法に業界内外から注目を集める。